2021年10月にあった教育に関わるニュースの中から気になったものを、現役教員の筆者の視点からお伝えします。(NHK NEWS WEBより)
教員残業代訴訟 訴え退けるも“法律 実情合わず”さいたま地裁
公立学校の教職員に対し月給の4%分が上乗せして支給される代わりに残業代が支払われないことについて、不当な長時間労働が横行しているとして残業代の支払いを求めた裁判で、さいたま地方裁判所は原告の教諭の訴えを退ける一方「法律は教育現場の実情に合っていないと思わざるをえない」と述べました。(元記事)
この4%のことを教職調整額といいます。公立だけでなく、私立学校の多くもこれに準拠していて残業代を出さない代わりに、4%程度上乗せされています。また、ごくまれではありますが、ちゃんと残業代がでる私立学校もあれば、教職調整額すらないところもあります。
私も新卒で公立学校で働き始めたころ、その安さに驚きましたね。初任給は22万円程度だったと思うのですが、教職調整額にして8,800円程度にしかなりません。そのころは毎日2時間程度の残業をしていましたので、30日のうち7分の5が出勤日ですので、月間43時間ほどの残業をしていたことになります。これを時給換算すると、時給205円で残業していたことになります。
まあ、アルバイトではないので、時給換算するのはナンセンスなのかもしれませんが、驚きの安さですね。ちなみに、2時間で残業が終わるかは人それぞれで、それより早く帰れる人もいれば、4時間以上の残業をする人もいます。学校によって様々ですし、支援学校や通信制・定時制であれば比較的早く帰れますが、公立中学校やブラックな私立学校だと長時間の残業が横行します。
今回の判決で、訴えは退けられましたが、裁判長のこの発言を受けて教職調整額にメスが入るのかが注目です。
岐阜 県立高校に“デジタル採点システム”導入 教師の負担軽減
教師の負担軽減につなげようと、岐阜県教育委員会はすべての県立高校に一部の問題の採点や得点の集計を自動で行う「デジタル採点システム」を新たに導入し、この秋の定期テストで活用する動きが広がっています。(元記事)
私もデジタル採点システムは使ったことがありますが、非常に便利です。そして、採点ミスも起こりにくいのでそういう面でも良いシステムですね。特に合計得点を出すときに絶対採点ミスが起こらないのは安心感があります。
デジタル採点システムは結構高額ですので、個人で購入するには難があり、そもそも個人では購入できないものも多いです。そういうものを自治体や学校が率先して導入するのは良い事例ですね。今後、全国のどの学校でも使える日が来ることを期待します!
入試の調査書 「出席停止等」の日数 不記載求める 文科省
感染拡大による分散登校などでオンラインで授業を受けた場合、基本は出席や欠席ではなく「出席停止・忌引き等」となることに対し、受験で不利益を被らないか不安視する声があるとして、文部科学省は、入試の調査書に「出席停止」の日数を記載しないよう、全国の教育委員会や大学に求めています。(元記事)
次のニュースと被るところがあるので、そちらと一緒に解説しますね。
オンライン授業参加「出席停止・忌引き等」扱い 名称変更検討
新型コロナウイルスの影響によるオンラインでの授業への参加について、「出席停止・忌引き等」として扱われることが受験で不利にならないか不安視する声が出ていることを受け、末松文部科学大臣は別の呼び方への変更を含めて検討する考えを示しました。(元記事)
オンライン授業に関する出席停止の扱いについて、文部科学省が教育委員会と大学側に「出席停止には配慮して!」と言いつつ、自分でも出席停止の呼び方を変えてしまおうというニュースです。
オンライン授業は出席ではないんですよ。でも、欠席ではないので、出席停止として扱っています。つまりどういうことかというと、出席するべき日数というのがあって、「(出席すべき日数)=(授業日数)-(出席停止・忌引き等)」としていて、割合にすると分子の出席日数は増えないけど、分母の出席すべき日数が減っていきます。
授業日数が30日で、オンライン授業を受けていたのが10日だった場合、出席関係の記載は下のようになります。学校によって表記方法は様々ですし、今回は公欠・公用などの欄も省略しています。
授業日数 | 欠席 | 出席停止・ 忌引き等 | 出席すべき 日数 | 出席日数 |
30 | 0 | 10 | 20 | 20 |
ほとんどの場合は出席すべき日数が書かれていますので、気にならないでしょう。しかし、オンライン授業を選択制として取り入れている学校の場合、他の生徒と比べてしまうと出席すべき日数が減ってしまうので、出席日数は他の生徒より少なくなってしまいます。
受験で不利になるかどうかと聞かれると、「欠席日数が10日以内」といった欠席日数で書かれている学校がほとんどですので、多くの場合で不利になりません。教育委員会や大学側も昨今の事情は分かっていますので、そこは配慮してもらえることと思います。
ただ、指定校推薦や学校内での推薦規定などで、「出席すべき日数の2/3以上の出席」など割合で記載しているところは気を付けたいところです。割合だとややこしいことが起こってしまいます。
「出席すべき日数の2/3以上に出席」となっている場合、授業日数が200日だったとしましょう。そうすると、「出席停止・忌引き等」なしで、「欠席」が66日だったらセーフです。134/200 = 0.67 > 2/3
授業日数 | 欠席 | 出席停止・ 忌引き等 | 出席すべき 日数 | 出席日数 |
200 | 66 | 0 | 200 | 134 |
それに対して、コロナ感染の恐れがあるから自宅からオンライン授業を受けるという選択をして、1学期~2学期中間までのおよそ3/5(年間120日)オンライン授業を受けましたが、その後体調を崩し合計27日間欠席してしまった場合を考えましょう。この場合、「出席停止・忌引き等」が120日で、「欠席」が27日です。53/80 = 0.6625 < 2/3 となりますので、この場合はアウトになります。
授業日数 | 欠席 | 出席停止・ 忌引き等 | 出席すべき 日数 | 出席日数 |
200 | 27 | 120 | 80 | 53 |
このように、オンライン授業を利用しない生徒は欠席66日までセーフなのに、オンライン授業を活用した生徒は27日の欠席でもアウトになってしまいます。この点は気を付けたいところですし、大学側や教育委員会側も配慮したいところです。
文部科学省のオンライン授業を出席と認めない姿勢は頑なです。呼び方の変更をしたところで、扱い方に変わりはありませんので、オンライン授業を出席として記載するつもりはないようです。
その後、2021年10月22日付で文部科学省は全国の都道府県教育委員会あてに名称変更OKの通知を出しました。これで自治体ごとの判断で出席停止の名称を変更が可能になりました。とはいっても、根本的な問題は解決されていないのと、判断が自治体によって差が出ることは必至なので、混乱は続きそうです。