2022年3月にあった教育に関わるニュースの中から気になったものを、現役教員の筆者の視点からお伝えします。
特別支援学校 児童らの増加に伴い「教室不足」 全国で3740に
特別支援学校に通う児童や生徒の増加に伴い、間仕切りをするなどして一時的な対応を取っている教室は7000を超え、整備が必要だと報告された「教室不足」の数は全国で3740に上ることが国の調査でわかりました。
特別支援学校に通う子どもは、個々の特性にあった指導が受けられるなどといった理由から、この10年で2万人以上増え、今年度は14万6000人余りと過去最多となっていて、文部科学省は全国の特別支援学校を対象に去年10月時点の対応状況を調査しました。その結果、教室を確保するため音楽室や図工室などを転用したり、1つの教室を分割したりしているケースが多かったほか、体育館や廊下に間仕切りをしているケースもあり、一時的な対応が取られている教室は全国で7125ありました。このうち、授業に支障が生じていて整備が必要だと報告された教室は2860あり、一時的な対応が取られている教室以外にも将来的に整備が必要とされた880の教室と合わせると、「教室不足」の数は前回2019年度の調査から578増えて3740教室に上っています。(NHKニュース)
特別支援学校に関するニュースです。少子化と言われ続け、子どもの数は減少の一途を辿っていますが、特別支援学校に通う生徒は年々増えています。(特別支援学級の生徒も増加しています。)増加の主な原因は発達障害への認知が広がり、子どもの発達に疑問を持った保護者が医療機関を受診し、発達障害の診断が増えたことや、特別支援学校による、よりきめ細やかな対応を求める保護者が増えたことが原因と言われています。(この他にも特別支援学校の方が就職に有利だという報道があったことや、発達障害のある子どもがそもそも増えていて、その原因は高齢出産の増加によるものだという論文もあったりします。)
特別支援学校に通う生徒が増えているのに教室が足りないとなると、本来の特別支援学校の利点であったきめ細やかな教育を活かすことができません。また、特別支援学校を増やすために閉校となった一般校の校舎を活用することもあります。しかし、このパターンだともともとの校舎の骨格は障害のない生徒向けに作られたものですので、色々と不都合なこともあり徐々に特別支援学校向けの設備に入れ替えていく必要があります。
今後も特別支援学校に通う生徒は増加し続けるでしょうから、早急な対応が求められます。
“部活動の強制加入 撤廃を” 若者の団体がスポーツ庁に要望
一部の学校で部活動が強制されている実態があるとして、若者の団体が9日、スポーツ庁に対し、部活動への強制加入の撤廃を要望しました。9日は、高校生や大学生などでつくる「日本若者協議会」が、およそ8900人分の署名とともに、要望書をスポーツ庁に提出しました。この中では、2017年度の国の抽出調査で公立の中学校の30%、公立の高校の15%で部活動が強制されている実態があるとして、強制加入を撤廃するとともに、参加しないことで受験で不利にならないことを生徒や保護者に周知するよう求めています。団体では、任意参加のはずが強制加入が伝統的に続いていたり、保護者や卒業生からの要望で部活動を縮小できなかったりする学校があるほか、生徒自身も内申書などへの影響をおそれ、辞められない状況があるとしていて、精神的に苦痛を感じても部活動を辞められず、不登校となるケースもあるとしています。(NHKニュース)
部活動に関する改革は進むのでしょうか!?長時間労働・時間外休日労働が問題視され、顧問になりたくないという教員が増えてきている中、生徒の方も部活動離れが進んでいます。生徒も強制参加、教員も強制参加というのはもう時代に適していませんね。
記事の中には「参加しないことで受験で不利にならないことを~」とありますが、ここは微妙なところですね。私が勤務してきた大阪の公立・私立学校ですと、部活動が有利に働くケースが今なお存在します。公立高校の入試ではボーダーラインに入った生徒をアドミッションポリシーによって、それに適した生徒を優先して合格させることができるのですが、部活動の実績を使用したことがあります。私立学校では指定校推薦や内部推薦に部活動の入部状況や活動実績での加点を行うことも多いです。
つまり部活動に加入していないことによる減点はありませんが、周囲が加点されることによって相対的に不利になっているとは言えます。部活動の強制参加問題だけでなく、このあたりの改善も必要になるでしょう。
山梨県内の公立小学校 1人1台端末導入後 約2割の教諭「授業で全く使用せず」
それぞれの児童にパソコンなどを支給する「1人1台端末」について、約2割の教諭が授業などで全く使っていないことが公立の小学校を対象にした調査で分かりました。この調査は、校長会の小学校部会が、山梨県内の公立小学校を対象に2021年8月から9月にかけて実施したもので、153校、1934人の教諭から回答がありました。その結果、1人1台端末を授業に活用している頻度は「ほぼ毎日」、「週に数回」と回答した教諭が全体の半数近くを占めました。一方で、「全く使っていない」という回答が18.7%ありました。
また活用に向けた課題については「自分のスキルが不足している」が66.4%で最も多く、「ICT支援員などの人的サポート体制が必要」の43.7%が続きました。この結果について、小学校部会は「今後の学校教育にICTの活用が必要不可欠である一方で、急速な導入で現場に戸惑いが見える」と分析しています。(スゴろく)
記事は山梨県のものですが、これは全国で起こっているでしょうね。私はICT端末が好きで、授業にもガッツリ取り入れているほうではありますが、教員にも得意不得意がありますので、ICT端末が苦手な人はとことん苦手です。一般企業であればそういう人はなるべくそういうものを触らなくていい部署に異動ということも可能なんでしょうけど、学校では難しいですよね。また、指導方法を強制されることに抵抗感がある教員もいますし、ICT端末を使わないことによる罰則も特にありませんので、ICTの活用ニーズがあっても現場はなかなか適応できていないのが実情でしょう。
ここ数年でICT端末を導入する学校が急速に増えてきて、1人1台の端末を持つのが当たり前の環境になりました。端末自体は高額なもので、多くの学校ではその費用を保護者に負担してもらっていることでしょう。よくクレームがあるのは「〇〇(某ICT端末)を買わせているのに、あの先生は〇〇を使う授業をしないんだけど、どうなってるの!」というものです。保護者にも過渡期であることを認識してもらい、もうしばらく待ってもらいたいとは思いますがね。
教員はみんな死んだ目…N高「労働問題」泥沼状態の現状とは
情報通信技術「ICT」を活用した教育が特徴で、2016年の開校からわずか5年で日本一の生徒数2万人以上を獲得した学校法人角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校」。インターネット環境さえあれば入学可能な通信制高校で、入学を検討する生徒や保護者のほか、入職を希望する人も多い。しかし世間の評価とは裏腹に、労働問題が露呈。事実とは異なる悪質な勤務態度をでっち上げられたり、幻聴に悩まされて死を意識したりした講師たちもいるという。N高との団体交渉を続ける労働組合「私学教員ユニオン」所属の元教員を含む3人に話を聞いた。(bizSPA!)
教員としては気になっていたN高の働き方についてです。通信制の学校と同じなのかなとは思っていましたが、ブラックな労働環境のようです。上のリンクから3人の詳しい話は確認できますが、その内容を簡略化してご紹介します。
- 教員1人あたり約150名の生徒の担任業務とスクーリング
- ほぼ1年中、繁忙期状態が続き、当月に取得できるという約束だった振替休日も、繁忙期が終わる3月まで取得できません
- 休憩なしの約12時間勤務が週6日続いたこともあります
- 学校との業務連絡や保護者・生徒とのやり取りをおこなうコミュニケーションツール「Slack」の頻繁な通知音を聞いているうちに「幻聴が聞こえ、死をも覚悟した」
労働環境的には以上のような状況だったようです。公立の通信制学校と比べると担任する人数は多いですよね。一般企業の方からすると大変だなぁと思われるかもしれませんが、教員の方からすれば「あれ!?自分とあまり変わらないのでは…。」と思う方もいるのではないでしょうか。私もブラック私学で勤めていたときは年休や振替休日の未消化、休憩なしで16時間勤務、120連勤ということが日常でしたのでそれを思うとまだマシなのでは?と感じてしまう毒されっぷりです。
とはいってもN高の経営体制はなかなか闇が深そうですね。記事の内容からは現状の劣悪な労働環境を改善しようという思いがあまりないように感じられます。まぁこのあたりは他の全日制の学校も同じですけどね。教育現場は仕事を増やすことには積極的ですが、減らすことには消極的です。この不健全な流れを教育現場全体で変えていかなければなりません。
“全教員が特別支援学級の担任など2年以上経験を” 文科省
障害のある子どもへの教育を充実させる必要があるとして、文部科学省の検討会議は、すべての教員が採用後10年程度の間に特別支援学級の担任などを2年以上経験することが望ましいとする報告書の案を示しました。
個々の障害に応じた教育へのニーズの高まりとともに、特別支援学級が設置されている小中学校などは8割を超えていますが、特別支援教育の経験がある校長は3割に満たず、特別支援学級の教員は年度ごとに採用される非正規教員の割合が高く長期的な育成が困難な状況が課題となっています。これについて、文部科学省の検討会議が15日報告書の案を示し、この中ではすべての教員が採用後、10年程度の間に特別支援学級の担任などを2年以上経験することを目指すとしたうえで、担任が難しい場合でも一部の教科を通年で担当して経験を積むことなどが盛り込まれています。(NHKニュース)
残念ながら、学校では特別支援学級を軽視する傾向があり、悪く言えば特別支援学級の担任を左遷先のような感覚でいる学校も少なからずあります。それが数字として表れるのが、特別支援学級の担任非正規率高さと校長の支援教育経験率の低さです。組織として特別支援教育経験というのが評価されないのでしょうね。
特別支援教育に関する知識と技術は、今の教育現場には必要不可欠なものになってきています。そのため、多くの教員が特別支援教育に関わることは様々な生徒に対応するために必要なことでしょう。今回のこの案が実現することによって、若手教員の特別支援教育経験者は100%に近づくことでしょうけど、校長の特別支援教育経験率の低さの解消にはつながりません。こちらの方にもメスをいれることが必要なのではないでしょうか。