2022年8月にあった教育に関わるニュースの中から気になったものを、現役教員の筆者の視点からお伝えします。
「教員不足」1000人超を確認 一部自治体で、組合調査
全日本教職員組合(全教)は3日、病気休職や産休・育休などで生じた欠員が埋められない「教員不足」の調査結果を公表した。地方組織を通じた調査ができた19都道府県と4政令指定都市の公立小中高校と特別支援学校で、5月1日時点で少なくとも1020人の不足を確認した。全教は「子どもの学びに深刻な影響が出ている」として国に改善を求める。
調査は教育委員会に不足人数を尋ね、回答が得られない場合は各組織のメンバーが所属する学校の状況をまとめた。学校種別では小学校が587人、中学校240人、高校76人など。どの程度の割合で不足が生じているのかは不明という。(共同通信)
先生不足が深刻…神戸市教育委員会が「ペーパーティーチャー」募集 経験の少なさ研修でフォロー
全国的に教員不足が深刻化する中、神戸市教育委員会は29日、教員免許を持っていて勤務経験が少ない「ペーパーティーチャー」を対象とした研修の参加者募集を始めた。情報通信機器の活用やいじめ対応などを習得した上で、臨時講師として同市立学校で半年以上勤務。教員確保につなげる。(神戸新聞)
1年目の非正規教員が「自己流」で教壇に立つ異常、育成されずに切り捨てられる教員たち
公立学校では非正規雇用の教員が増え続けている。その数は全国の公立学校で5~6人に1人に上る。教師という職業に、いったい何が起きているのか。特集「『非正規化』する教師」の第6回は、初任者研修すら受けられずに教壇に立ち続けざるを得ない非正規教員の現実に迫る。(東洋経済ONLINE)
教員不足とその対応に関するニュースを3つ連続で。夏休みに入り、教員の人手不足と待遇の悪さ、労働環境の悪さがクローズアップされる機会が増えてきました。そもそも新年度がスタートした段階で、十分な教員数を確保できないのにも関わらず、1学期の間に教員を辞めてしまう人がいますからね。
全国の学校では教員が足りておらず、教員になれる人材の掘り起こしや、非正規教員で何とか繋ごうとしています。それに教員が足りていないので、教員を教育することすらままならず教育現場は崩壊寸前の危機的状況です。この状況では子どもたちに良好な学習環境を提供できないのは分かり切っていますので、早急な改善が求められます。
正規教員を良好な職場環境、そして正当な待遇で迎え入れればほとんど解決するんですけどね。文部科学省や教育委員会にはそれに早く気づいてもらいたいところです。(分かっているけど、改善したくないのかもしれませんが…。)
校内のトラブル増加や待遇面の不満…米国で深刻な教員不足
私がお伝えしたいのは、アメリカで深刻な先生不足です。
アメリカ労働統計局のデータでは、2020年2月から5月までの間に約30万人の先生が仕事を辞めました。
フロリダ州では8000人の先生が足りず、テキサス州では一部地域で学校を週4日制に変更する事態にも。
子供たちが他の授業に割り振られたり、事務職員がクラスをカバーするケースも出ています。(FNN)
アメリカでも教員不足は深刻のようです。しかし日本と違うのは、人手が足りないと全体の仕事量が減らされるところです。日本の場合だとこうはいきませんよね。アメリカだと「教員が足りない!?」→「仕方ない、授業数を減らすか」→「週4日制」となりますが、日本だと「教員が足りない!?」→「仕方ない、教員一人当たりの授業数を増やすか」→「!?」というふうになります。
日本だけでなく、アメリカでも教員の労働環境は悪いようですね。しかし、その対応は日本とアメリカでは違うようです。
教員に残業代出ない理不尽な法律「給特法」の改正、廃止機運は高まるか
ここ数年、うつ病などの精神疾患で休職する教員は毎年5000人前後いる。長時間労働が一因とみられ、実際は月80時間の過労死ラインを超える働き方をしている教員は大勢いる。もはや学校の「ブラック化」は社会問題として注目を集めているが、その元凶ともいえるのが「給特法」だ。公立学校の教員には残業代が支払われないという理不尽な法律「給特法」の存在を知らない人も少なくない。だが、大阪府立高校教員・西本武史さんと埼玉県公立小学校教員・田中まさおさんの裁判によって「給特法」が転換期を迎えるかもしれない。(東洋経済ONLINE)
教員の待遇が悪い諸悪の根源「給特法」。これに関する情報は近年報道されるようになり、多くの方に知られるようになってきました。また、これに関する裁判も行われるようになり給特法の改正・廃止の議論は以前より増えてきたように思います。
しかし、実際にこの法律が改正・廃止されるかは疑問ですね。この法律、雇う側(国や自治体)からすれば非常に都合のいい法律です。何てったって教員に残業代を支払おうものなら、年間で1兆円ほどの予算が必要とさえ言われています。これを払わなくて済むのであれば、この法律は変えたくないところでしょう。
最近、岸田総理がアフリカに4兆円、インドに5兆円の投資をすると発表しましたね。その予算があれば9年間の教育問題が解決できるのに…。と思ってしまいます。
新閣僚に聞く 教員不足に危機感「採用スケジュール検討を」永岡桂子文部科学相
--教員不足解消への方策は 「(教員不足は)非常に憂慮すべき状況で危機感を持っている。教員採用試験時期の早期化、(受験ルートの)複線化について中教審で議論が行われている。これまで通りのスケジュール、選考方法で優秀な人材が獲得できるのか、検討する必要がある」(産経新聞)
違う、そこじゃない。
残念ながら新しい文部科学大臣も期待できませんね。あなたに求めているのは、教員の労働環境改善のための予算を取ってくることです。金がないのに小手先だけの採用試験の時期変更だけでは根本は解決しませんし、採用試験を前倒しするのであれば、公立学校での採用をキープされたまま、より条件の良い一般企業や私立学校にチャレンジされるだけのような気がしますが…。
学校ICT化へ予算10倍 デジタル教科書の導入支援 文科省要求
2024年度から全国の公立小中学校でデジタル教科書が本格導入されるのに備え、文部科学省は、学校の情報通信技術(ICT)活用をサポートする体制を大幅に強化する。来年度予算概算要求に今年度当初予算(10億円)の10倍となる100億円程度を計上する方針を固めた。教員向けに端末の使い方をアドバイスする研修などに取り組む。(時事通信)
だから、お金をかけるのはそこじゃない!
教員の労働環境や待遇の改善にはなかなか予算をつけないのに、こういう中抜きしやすそうなものには予算を潤沢につけるのが近年の文部科学省です。
確かにデジタル教科書の導入で助かる生徒はいます。そのため、この予算は必要なものだとは思いますが、こういう予算はすんなり決まるんだなぁというのが感想ですね。ちなみに、教員向けの研修も充実させるようです(棒)。
講師の「腐ったミカン」発言、追手門学院の意向 元職員に労災認定
学校法人追手門学院(大阪府)が2016年に開いた職員研修で、外部講師が「腐ったミカンは置いておけない」などと発言した問題で、受講していた元職員の男性がうつ病になったのは繰り返し退職を強要されたことが原因だとして、茨木労働基準監督署に労災認定された。労基署は「退職勧奨とも人格否定ともいえる発言」であり、委託した学院の意向に沿ったものだと認めた。
労災認定は3月25日付。労基署が認定内容をまとめた文書によると、男性は学院幹部との面談で退職勧奨を受け、16年8月22~26日の職員研修に参加するよう指示された。研修では、東京のコンサルタント会社「ブレインアカデミー」の外部講師から連日、17年3月末での退職を受け入れるよう求められた。
退職する意思はなく、専任職員としての雇用継続を希望したが、外部講師から「現状維持はあり得ない」と否定され、「あなたのように腐ったミカンを置いておくわけにはいかない」とも言われた。研修後には学院幹部から「退職した上での職種変更しかない」と何度も迫られ、17年2月にうつ病と診断された。(朝日新聞デジタル)
最後にブラック私学のニュースを。大阪にある追手門学院という学校法人(大学1つ、中学・高校2つずつ、小学校1つ、子ども園1つを有する私立学校)で職員・教職員の退職を前提としたパワハラ研修が行われた件について、ついに労基が内容を認めました。
内容は、追手門学院がブレインアカデミーというコンサル会社に、不要になった職員を退職させるべく職員研修を開催させ、5日間連続でパワハラ・人格否定を行い続けるという極悪なもの。退職勧告自体は違法ではありませんが、やり方が悪質で違法性が認められたようですね。
教員志望の方はこういうニュースをチェックして、過去にパワハラまがいのことが行われた学校を回避したいところですね。