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2022年7月教育ニュースまとめ

2022年7月にあった教育に関わるニュースの中から気になったものを、現役教員の筆者の視点からお伝えします。

教諭過労判決、大阪府控訴せず 知事が謝罪

 大阪府立高校の教諭、西本武史さん(34)が適応障害を発症して休職したのは、長時間労働が原因だと認め、府に請求通り約230万円の支払いを命じた28日の大阪地裁判決について、吉村洋文知事は29日、控訴しないと表明した。控訴期限の7月12日に大阪地裁判決が確定する。

 吉村氏は西本さんに対し、「判決では、校長に(長時間勤務の改善を)直訴する中、具体的な対策を取らなかったと(学校側の)過失が認められた。申し訳ない」と謝罪した。その上で、学校の部活動指導が長時間にわたり行われている現状を踏まえ、「(教育現場は)仕組みとして過重労働になりやすい環境にある」と指摘し、「裁判で争うよりも、教育委員会には教員の過重労働をいかに減らすべきかということに注力してもらいたい」と述べた。(産経ニュース

教員の過労問題についてのニュースです。この件では該当教員が教科指導に加え、クラス担任、ラグビー部顧問、さらには分掌と海外研修も担当していた教員が月100時間以上の時間外労働を行っていました。そして、この窮状を校長に訴えたのにもかかわらず、改善がなされなかったことを裁判所が認めたということですね。

この件で言えば、教科指導+クラス担任+部活動顧問+分掌+αというのは、一般的な常勤教員であればよくある仕事の組み合わせです。それを考えると月100時間の時間外労働というのは、かなりの数の教員が該当するのではないでしょうか?今後も同様の裁判が出てきてもおかしくはありません。

また、教育問題に関して国を訴えても成果はないが、校長や組織に属する個人の過失を争えば、裁判所に過失を認めてもらえるという傾向にあるようですね。管理職にとっては非常に厳しい環境になるでしょう。教員からは改善の要望がでるが、それについての予算や人員は上からは降りてこないという板挟みになって、管理職の心労は絶えないことでしょう。

今回の件を受けて、ボールは教育委員会に投げられました。教育委員会が抜本的な改革を行うのか、それとも適当に報告書だけを作ってほとんど動かないのか、今後が気になるところです。

教員の新たな研修制度案、校長が受講を指導助言…問題ある教員への対応策も盛る

 教員免許に10年の期限を設けて更新時に講習受講を義務づける「教員免許更新制」が7月に廃止されることを受け、文部科学省は27日、新たな研修制度の具体案をまとめた。校長らが教員の研修履歴を活用し、面談で受講すべき研修を指導助言するのが柱だ。理由なく受講しないなど、問題のある教員への対応策も盛り込んだ。

 27日に開かれた中央教育審議会の合同会議で運用指針案などが示された。更新制の廃止で、教員免許は無期限になり、更新講習を受ける必要がなくなるが、教員の質の低下が懸念される。文科省は研修履歴記録システムを2023年度中に稼働させ、各教員の研修履歴を元に、校長が「今後どの分野の学びを深めるべきか」などを指導助言することで教員の指導力向上につなげる。(読売新聞オンライン

教員免許更新制度廃止に伴い新設される新しい研修制度の様子が少しずつわかってきました。率直な意見を言うと、10年に1回の研修が毎年少しずつに分散されるんだろうなという感想です。

ちなみにこの新たな研修制度ですが、公立小中高校などの正規教員が対象です。「など」に含みをもたしていますが、私立は対象外でしょう。そして正規教員としているので、教諭が対象で講師は

今も続く「教師のバトン」…国防強化の陰で疲弊する「教育現場」

岸田総理は「『教育』は国家の基本」と言うが…

「子育てが一段落して来たから、そろそろ講師でもしようかと思って登録を考えたけど、登録するとすぐに『来週から来て』みたいな連絡が来ると聞いて、怖くなって、結局やめたの。教職に就いたことのない人でもすぐに連絡来るから、何なら登録してみて」

そんな話を東京都の小学校で教員をしていた友人から聞いた。 また、別の友人からは「講師登録しようと思ったけど、待遇面を見てやめた。あのブラックさで、あの待遇は、ない」「募集リスト見たら、あまりの数にドン引きした」とも聞いた。 昨年、文部科学省が教員らにTwitterなどを通じて仕事の魅力を発信してほしいという意図で始めたプロジェクト「♯教師のバトン」。しかし、フタを開けてみると、本来の狙いに反して、過酷な労働環境を訴える内容ばかりが投稿される事態となり、教員不足はマスコミ等でも取り上げられ、大いに話題になった。 それを一過性のニュースとして触れ、過去の話題ととらえている人もいるだろう。 しかし、「♯教師のバトン」は今も続いていて、事態は改善されるどころか、ますます悪化している。(Yahoo!ニュース

昨年から始まった「#教師のバトン」プロジェクトですが、炎上させるだけさせて、それに対するリアクションがないまま2年目を迎えています。リアクションがないのですが、教員側からの劣悪な環境を訴える声は止まず、プロジェクト当初にはあったポジティブな意見(文部科学省が欲しがっていた現場の声)はほとんど投稿されなくなりました。

それにしても、文部科学省の不都合な事実には触れないでおこう精神は流石ですね。これだけ環境改善の声が上がっているのに、ほとんど改善に乗り出そうとしません。文部科学大臣に予算を取ってくる力がないからなのかもしれませんが、この劣悪な環境では志願者は増えないでしょう。(予算はあっても、人員増や給与増などで教員にそのまま渡すのではなく、お友達企業などに渡したいんでしょうけどね。その方が票や自分の利権に繋がりますし。)

みなさんも興味があれば「#教師のバトン」で検索してみてください!

安倍元首相の「国葬」、小中高休校は「想定していない」 末松文科相

銃撃されて亡くなった安倍晋三元首相の「国葬」の際の小中学校や高校などの休校について、末松信介文部科学相は22日の記者会見で「今のところ全く決まっていないが、想定もしていない」と述べた。記者の質問に答えた。(朝日新聞デジタル

休みにはならないそうです…。

前回の国葬は昭和天皇のときですが、そのときは休日となったそうですね。しかし、過去に行われた内閣総理大臣経験者の国葬は休日とはなっていないので、妥当な線でしょう。秋は色々な学校行事が行われるのでそれをどかすのも大変なので安堵している人も多そうです

物価高に苦しむ国民を前に数億円規模の国葬を「税金」で行うことには疑問はありますが、学校現場への影響は少なそうですね。あるとすれば公立学校に半旗を掲げろと指令が来て組合が反発するぐらいでしょうかね。

マスクは?合宿は? 部活“勝負の夏” 第7波感染対策との両立苦慮

新型コロナウイルスの感染が急拡大し「第7波」に突入する中、学校は夏休みシーズンを迎えた。部活動にとって夏休みは大会があったり、まとまった練習時間を確保できたりする重要な時期だ。文部科学省も部活を禁止せず、学校現場に感染防止に配慮するよう求めるが、感染防止と部活の両立には難しさもある。(毎日新聞

夏の大会は悲惨な状況です

私自身、部活動の顧問をしていますが、夏の大会ではコロナに感染せず出場できれば上位に進める大会へと変貌しています。それぐらい棄権する学校が多く、「こんな状況で大会を開催していいのか?」という空気が漂っています。

そんな状況になっている要因は熱中症対策と感染症対策の両立の難しさです。子どもにとってはコロナ感染より熱中症の方が危険度が高く、マスクを外しての運動が推奨されています。現に、私もマスクを外すよう指導していますが、マスクを外したくないのなら別に構わないと言っています。私自身は、部活動強豪校にしたいと思っていませんので、現在のところは適度に熱中症対策と感染症対策を両立できているかなとは思っていますが、熱中症対策の優先度を上げている学校はバタバタと倒れていっているイメージです。

また、大会棄権の判断をする基準が曖昧な組織(中体連・高体連など)が多く、顧問の判断に任されるような学校もかなりの数あります。陽性者や濃厚接触者の人数や割合などを明確にしていれば良いのですが、部活動命の学校(顧問)はどれだけ陽性者(体調不良者)を抱えても出場しますし、休校していても管理職自身が大会の日に休校を解除するなど強引なことをやって出場しようとします。このあたりは闇が深いですよね。

大会中止にしません?そうすれば無理に練習することもありませんよ…。

教員の長時間労働改善へ 「給特法」の見直しを 教員などが訴え

教員に残業代を支払わないことを定めた「給特法」(きゅうとくほう)という法律が、長時間労働の改善を妨げているとして、教員や識者などが法律の見直しを訴えました。文部科学省で会見したのは現役の教員や識者などで、公立学校の教員について時間管理がされずに長時間労働で疲弊すれば多様な学びを実現できず、教員志望の学生も減少すると危機感を示し、「給特法」を見直すよう国に働きかけていくと訴えました。半世紀前にできた「給特法」は公立学校の教員の給与について定めた法律で、当時の月の残業時間、およそ8時間分にあたる月給の4%分を上乗せする代わりに、残業代は支払わない仕組みになっていますが、平成28年度の調査では月の残業時間は小学校で59時間、中学校では81時間と大幅に増えています。(NHKニュース

教員という仕事の最大の闇「残業代が支払われない」。この最大の要因が、半世紀前に制定された「給特法」の存在です。

給特法は記事にもあるように、教員の月の残業時間が8時間の時代に作られた法律で、月給の4%分を上乗せする代わりに残業代を支払わないというものです。教員の仕事の特殊性を反映させた法律なのですが、半世紀たって教員の残業時間が激増しているのにもかかわらず上乗せ分を引き上げなかったせいで「定額働かせ放題」と言われるほど劣悪な環境となっています。

ちなみに時給で試算すると以下の通りです。

月収20万円
(若手教員)
月収30万円
(中堅教員)
月収40万円
(ベテラン教員)
教員調整額
(4%)
8,000円12,000円16,000円
半世紀前
残業時間8時間
のときの時給
1,000円/時1,500円/時2,000円/時
現在の小学校
残業時間59時間
のときの時給
136.6円/時203.4円/時271.2円/時
現在の中学校
残業時間81時間
のときの時給
98.8円/時148.1円/時197.5円/時

半世紀前でしたら適正だったのかもしれませんが、現在では最低賃金を大きく下回る極悪ぶりです。近年の教員不足の要因の一つがその待遇の悪さです。最近では、教員の労働環境の悪さを報道やネットで知る機会も多く、教員にはなりたいと思っていても、この待遇では働けないと思っている人も多いです。教員の魅力発信よりも、この給特法の改正の方が教員の安定募集につながると思います

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