2022年9月にあった教育に関わるニュースの中から気になったものを、現役教員の筆者の視点からお伝えします。
教員の残業、月123時間 「働き方改革」の効果薄く 7年変化なし
連合のシンクタンク「連合総研」は7日、公立学校教員の残業時間が1カ月当たり平均123時間で「過労死ライン」とされる月80時間を大きく上回ったとする調査の中間結果を発表した。2015年の前回調査から大きな変化はなく、法改正や業務の見直しによる「働き方改革」の効果が現場の教員に行き届いていない実態が明らかになった。(毎日新聞)
そりゃあ変化ないでしょうね。だって、ほとんど何もしてないんですから。
「教育現場が疲弊しています!」「労働時間が長すぎます!」「残業代出ません!」と声を上げても何も変える気がないのが今の政府と文部科学省、教育委員会です。しかも教員の1割以上は、管理職から「実際より短い在校時間報告の要請」を受けたとされていますので、かなり悪質ですよね。
残業時間を減らすために必要なのは「部活動の切り離し」「業務・教育内容の縮小」「時間外の保護者・生徒対応要員の確保」「事務職員も含めた人員の増加」などが必要です。ただこれらをやろうと思うとかなりの予算と人員が必要です。はたして本気で改革しようとしているのでしょうかね。現場任せ感が否めません。
“メタバース学習塾”が生徒を刺激?アバターが高める積極性
インターネット上の仮想空間、メタバース。アメリカの巨大IT企業が年間1兆円を超える規模で競って投資を行うなど、高い注目を集めています。
国内でもすでにビジネスや学会など、さまざまな場面で活用が始まっていますが、山梨県に拠点を置く学習塾では、授業での利用を本格化させています。そこでは、生徒の授業に対する姿勢に顕著な変化が見られているといいます。
一体何が行われているのか。実際にメタバース空間に入って、授業を体験してきました。(NHKニュース)
ついにここまで来たかというニュースです。コロナ禍で急速に進んだオンライン授業ですが、さらに発展させたのがこちらです。自分のアバターを作成し、オンライン上の仮想空間で授業を受けることができます。オンライン授業との大きな違いは、アバターを作ることで本来の自分とは違う、もう1人の自分を出現させることができる点です。
オンライン授業は自分の姿を見せない設定もできますが、あくまで自分が直接的に関わらなければなりません。そのためどうしても本来の自分の姿を意識してしまいがち。自分の容姿や能力にコンプレックスがあると、なかなか主体的な行動に移せません。しかしアバターを使うことで生徒間に差のないフラットな存在でいることができ、日ごろではできないような積極的な行動ができるようになります。
内気な性格の人がインターネット上やゲーム上などでは積極性がでるということは以前からありましたが、それを教育の場でも発揮することができます。懸念点はリアルと分離でしょうか。メタバース空間で力がついていくことは良いことではありますが、リアルでの人との関わりが弱くなっていくことは気になります。この点の検証などは今後も注目ですね。
「出世払い型奨学金」導入検討へ 卒業後の所得に応じて支払い
大学院の在学中は授業料を徴収せず、卒業後の所得に応じて支払う「出世払い型奨学金」の導入に向けた、国の検討会議が始まりました。
年内に具体的な内容を取りまとめ、再来年度の導入を目指しています。
「出世払い型奨学金」は、在学中の授業料を国が立て替え、学生は卒業後の所得に応じて支払う新たな制度で、政府は再来年度からまずは大学院での導入を目指しています。(NHKニュース)
新しい奨学金の形ですね。注目は「卒業後の所得により返済額が違うこと」「在学中の授業料を立て替えてくれること」でしょう。
卒業後の所得ということは、所得が低ければ返済額が少ないということですので、安心感はありますが、意欲低下につながりかねないというデメリットもあります。所得が低ければ返済しなくていいんだし、「とりあえず大学へ行っておこうか」的な意欲の低い学生を量産してしまうのではないか気になるところです。
また、授業料を立て替えてくれるだけで現金を支給してくれるわけではありません。現金だと授業料だけでなく日ごろの生活費にも使うことができましたが、そうではないので結局生活費は自分で工面する必要があります。逆に言えば遊ぶ金に消えることは無いので本来のあるべき姿かもしれませんが。
私も奨学金を借りて30歳を過ぎても返済を続けてきました。奨学金はありがたい制度ではありますが、結局は借金です。しかも条件が合わなければ金利(非常に低金利ですが)がかかります。日本の大学の授業料は世界的に見ても高いですので、このあたりを抑えられるような政策が欲しいところですね。
教育委員会9割「半旗依頼せず」 学校に、山口県のみ要請
27日に営まれる安倍晋三元首相の国葬で、47都道府県と20政令指定都市の教育委員会のうち、設置する公立学校など教育現場に半旗掲揚の協力を依頼するのは安倍氏の地元山口県のみで、9割近くの60教委が依頼しないことが分かった。23日までの共同通信の取材に回答した。未定なのは6教委。また、教育委員会として博物館などの管轄施設で半旗を掲揚するのは3教委だった。政府は、自治体や教委に弔意表明の協力を求めない方針を示している。教育基本法は、特定政党の支持など学校の政治的活動を禁じており、弔意表明に慎重な教委が多かったとみられる。(共同通信)
全国的に国葬反対派が多い中強行されますので、半旗依頼はしづらいでしょうね。むしろ地元とはいえ山口県はかなりやんちゃなことをしますね。これは組合などから猛反発を受けていることでしょう。
「君が代」を斉唱することさえ反発している教育現場(一部の熱烈な組合員)ですが、特定の人物のための半旗などありえないでしょう。森友学園や加計学園あたりがどう動くか気になるところではありますが。
給食のカレーに漂白剤混入 容疑の教諭逮捕 「担任外され不満」埼玉
勤務先の小学校で給食のカレーに漂白剤を混ぜたとして、埼玉県警は16日、同県富士見市立水谷東小学校の教諭、半沢彩奈容疑者(24)=同県川越市=を威力業務妨害の疑いで逮捕し、発表した。容疑を認め、「3月まで受け持っていたクラスの担任を外され、人事に不満があった」と供述しているという。児童が配膳中に異臭に気づき、カレーを食べた人はいなかった。健康被害は確認されていないという。(朝日新聞デジタル)
今月の衝撃のニュースはやはりこれでしょうか。小学校で教員がカレーに漂白剤を混入したという事件です。犯行動機はかなり異様ですよね。その復讐の矛先を昨年まで指導していた児童に向けるというブッ飛びっぷりです。報道から察するに2年間は当該クラスの担任をしていて、3年目で担任から外れたようです。保護者からの評判は上々だったようで、担任から外れたのも周期的なものだったのでしょう。
私からすれば、担任業務はやりがいはあるとは思いますが、負担が激増する割に給料は微々たるものしか増えないので割に合わない仕事です。担任を外れていた方がプレッシャーや責任も少なく楽なんですけど、この方は違うみたいですね。
この事件もやりがい搾取を行なっている教育現場の劣悪な環境が要因にあるとも考えられます。このようなやりがいに異常なまで執着するような人物が良しとされ(低給料でも長時間働いてくれる)、採用者受けが良いのでしょう。現にこのような教員の仕事を異様にやりがいを感じ、溢れて出ているような方はどの学校にも一定数います。
大半の教員はちゃんとしていますが、真っ当な人ほど教育現場から離れる傾向にあるのも残念ながら事実です。
「教員離れ」止まらない 公立小の採用倍率、21年度最低
「教員離れ」に歯止めがかからない。2021年度の公立小学校の採用試験の倍率は2.5倍となり過去最低を更新した。教育現場の労働負担の重さが指摘され、教員養成大学でも民間企業を選ぶ学生が増えている。教員不足は欧米各国でも課題として浮上しているが理由はそれぞれ異なる。教育の質維持に向け、日本は働く環境の改善が急務だ。(日経新聞)
この数値は2021年度のもので、現在終盤戦に差し掛かっている2022年度のものではありません。年々志願者数は減少し、教員不足が深刻になってきました。原因として「教員免許の取得者の減少」「労働環境の悪さ」を上げる教育委員会が多いですが、教員免許の取得者の減少は労働環境の悪さが世間に知れ渡り、教員養成課程などに進みたいと思う高校生が減少しているからですので、結局は労働環境の悪さが最大の要因です。しかも、その高校生と一番接するであろう教員が「教員を目指すのはオススメしない」とさえ言う始末です。これでは志願者増につながらないでしょう。しかも、高校生が教員を目指そうと思ってもその効果が現れるのは4年後という時差もあります。
また、今年の2022年度採用試験も倍率の低下が予想されています。大分県などでは小学校で定員割れを起こしていると言うニュースもありますので、今年度の採用活動も困難を極めています。このような定員割れは今後全国で起こることが予想されます。
【大阪府立高入試】トップ10校合格には、もはや必須の英検2級
府立高トップ10校に志願するなら、英検2級を取得するべきかもしれない。大阪府教委がこのほど、今春の府立高入試を総括した。本紙が注目したのは、今年は英語のスコアが保障される英検2級などを、かなりの受験生が取得して、試験に臨んだことだ。その数、トップ10校では50%超。英検2級はもはや、上位校の合格パスポートになってきた感がある。(大阪日日新聞)
大阪の府立高校入試のニュースですが、これは全国的な傾向もある話です。
大阪の府立高校の入試では、英語の受験に英検などの英語検定の成績を使うことができ、成績や取得級に応じて点数が保証されます。
この制度は非常に使い勝手が良く、当日の体調や問題の難易度に影響されず高得点を取ることができるのもメリットですし、資格さえ獲得できれば早い段階で英語の勉強を終えて他教科の勉強に力を注ぐことも可能です。
このような制度は大阪府だけでなく、他の自治体や私立学校でもあります。大阪府の府立高校の場合は得点保証でしたが、加点とするところもあります。そして対象となる成績や級も様々ですので、二級は無理そうだから辞めておくのではなく、準二級や三級でも利用できるような学校もあります。もしこのような制度があるのでしたら、活用しない手はないでしょう。
ただ、メリットが大きすぎて縮小するのではという心配もあります。大阪府の公立高校入試の場合だと、当日の問題の方が成績・級の取得よりも難しいため、当日の英語の問題が不要なのではないかとすら言われている始末です。この点に調整が入るかどうか注視したいところですね。
このニュースでは大阪府の上位10校でこの入試制度を活用した受験生が急増していますよ!ということが言われています。特に最上位の北野高校と天王寺高校ではその傾向が著しく、英検2級以上を取得していないと逆に不利になるぐらいです。検定料の面からTOEFL iBTやIELTSを選択することは少ないので、英検に集中するとは思いますが、英検を取得するためには早い段階から段階を追って英検の対策が必要になります。中3になってから受験勉強する時代は終わったのかもしれませんね。我が家でも受験を見据えた計画的な対策を取りたいと思います。